和歌山県北部の人口370人ほどの山間の村に、今春、小さな奇跡が起こった。閉鎖寸前だった旧小学校の一室が、子どもたちの手でカラフルな図書館に生まれ変わり、遠くから若い家族がくるきっかけとなったのだ。静かだった村は、木漏れ日と朗らかな声で再び息を吹き返し、地域を包む温かな輪が広がっている。
この村では、10年前に唯一の小学校が統合されて以降、校舎はほこりをかぶり、かつての賑わいを忘れかけていた。そんな中、町外にUターンしてきた元司書の久保理恵さん(38)は、校舎の窓から差し込む柔らかい光と広い空間に目を留めた。「もう一度、子どもたちの声がここから響いたら」との願いのもと、理恵さんは村の小中学生7人に発案をもちかけた。「自分たちだけの図書館をつくろう」——提案に子どもたちは目を輝かせた。
手作りの本棚や、村の大工・川原直一さん(54)が廃材で組んだ読書ベンチが設置され、村の高齢者や移住した家族たちも本を持ち寄る日々が始まった。全国から絵本や科学図鑑などが届き、SNSで話題になると、村を訪れた若い家族が「空き家暮らし体験」に申し込むようになった。図書館は週末限定だが、子どもたちが自分たちで運営する。「本の貸し出し係も、読み聞かせも全部自分たち」という責任を、7人は誇らしそうに語る。
小さな図書館は世代をつなぐハブとなっていった。読書会には88歳の高田雅夫さんが「昔話の語り部」として加わり、東京からテレワーク移住した林美奈子さん(32)はICT図鑑クラブを主宰。お互いができることで運営をサポートし合い、「本を通じて会話が生まれ、地域が一つにまとまった」と理恵さんも笑顔で振り返る。若い世代がこの村に「しごと」と「未来」を見出し、移民政策に関心のある行政の担当者が見学に訪れる場面も増えている。
SNS上には「うちの町にも“子ども司書”の図書館がほしい」「小さくて素敵な輪を広げたい」と感動の声が寄せられ、全国から応援の本が届く。久保理恵さんは「この村が『未来も学べる図書館の村』と呼ばれる日が、いつか来たら」と語る。静かな山間の村に再び灯った絆の灯りは、きっと消えることなく輝き続けるだろう。
コメント
子育て中の母です。こんな温かな図書館が近くにあったら、と想像するだけでわくわくします!子どもたちが自分たちで運営しているなんて、きっと学びや思い出にも残るでしょうね。ぜひ家族で遊びに行ってみたいです。
88歳の語り部さんが参加しているのが微笑ましいです。自分も孫たちに昔話を話すのが好きなので、こういう場所がもっと増えたら嬉しいなと思いました。世代を越えて交流できるって素敵ですね。
学生です!読書が好きで、図書館を自分たちの手で作るなんて夢みたい。いろんな人が集まる場所になってるのも羨ましいです。私の町にも、こんな“みんなで作る図書館”ができたらいいな。
近所の住民として、村が再びにぎやかになるのを感じて嬉しいです。最近は静かだったけれど、子どもたちの声と笑顔が戻ってきて、なんだかこちらも元気をもらった気がします。手作りの本棚やベンチにも温かさを感じます。
SNSで知って、ほんとにいい話だな〜って思いました!図書館って静かなイメージだけど、この村の図書館はみんなの居場所なんですね。応援したくなるし、次にどんな輪が広がるのか楽しみにしています。