ぽんぽんと手のひらで叩いた音が、公民館の窓辺からふんわり響いた。そこで笑顔を交わし合うのは、材料工学にまったく無縁だったはずの町のおばあちゃんたち。ところが今、ごく普通の手仕事と最新のバイオマテリアル研究が美しい調和を生み、地域の絆と地球にやさしい循環型社会への一歩を刻んでいる。
山梨県北部にある重山町。その小さな集落で「茶の葉の会」の会長を務める横田ふみ子さん(76)は、数年前から自宅に届くペットボトルや食品トレーを見て胸を痛めていた。そんな折、孫娘が通う大学研究グループが町にやってきたことが転機となった。「再結晶技術でごみを“生まれ変わらせる”って聞いたとき、夢のようだと思ったんです」とふみ子さんは振り返る。
大学院生の佐島慧斗さん(24)たちは、特殊なバイオ酵素を使い、回収したリサイクル樹脂をわずか5時間ほどで“お茶器”に変える技術の実証実験を開始。“再結晶高分子”の真新しい茶碗や湯呑みは、まるで磁器のような白さと手触り、しかも不思議なほど腐食にも強いのだという。工場の煙突も、重機の音もいらない。おばあちゃんたちが寄り添い合い、家庭で回収した樹脂を細かくちぎっては、慎重に撹拌用ボウルに入れてゆく姿はまるで“みんなで育てる花畑”のようだった。
生まれたお茶器は赤ちゃんの肌のような優しさで、茶道教室の生徒のみずきさん(11)が初めて手に取ったとき「おばあちゃんの手みたい」とつぶやいた。町立図書館では「大切に使わせていただきます」と館長の柏原純一さん(60)。SNSでも“#やさしさ茶器”は静かな話題を呼び、「祖母が作った器で孫と初めてお抹茶を飲みました」「リサイクルで繋がる新しい縁」といったコメントが多数寄せられている。
技術指導の佐島さんは「科学が魔法のように、地域と心のつながりを生んでいく――そんな瞬間を一緒に見られて幸せです」とほほえむ。横田さんたちのグループは今、町内外の福祉施設や幼稚園にリサイクル樹脂茶器を贈る活動を始めており、重山町の名産品として世界にも小さな風を起こしつつある。「次は町の桜の花びらを模した新しい器を」と夢がふくらむ。いつものお茶の時間が、静かに、しかし確実に地球を優しく変えていく。
コメント
小学生の娘と楽しく記事を読みました。おばあちゃんたちの想いと新しい技術が一緒になって、子どもたちの未来にも優しい工夫が生まれていることに感動しました。娘も「ごみから器ができるなんてすごいね!」と興味津々です。ぜひ親子で使いたいです。
私も同じ年代として、おばあちゃんたちの活動に元気をもらいました。みんなで集まって手仕事をする時間って、本当に心があったまりますよね。それが町のみんなの役に立っているなんて素敵です。応援しています!
これはまさに地域×サイエンスの最高の形ですね。大学院生の佐島さんたちの熱意も伝わってきます!自分の地域でもこういった活動が広がったらいいなぁ。環境のためにも、こういう小さいイノベーションが積み重なっていくと信じています。
いやー、町のおばあちゃんたち、やるなあ!昔ながらのお茶時間が、こんな新しい形で残ってくのがうれしいです。公民館で皆さんがワイワイやってる様子が目に浮かびます。今度参加してみたくなりました。
すごくあったかい話だと思いました!リサイクルって地味で面倒なイメージがあったけど、みんなでやればこんなに楽しいんだなって。私の学校でもワークショップとかできたらな、と読んでてワクワクしました!