“孫宿り”プロジェクト始動 テレワークで甦る信濃の温泉宿と人口減少集落の奇跡

古民家風の旅館で高齢者と若い家族が一緒に食事や交流を楽しむ様子。 人口減少社会
世代を超えた人々が集い、温かい時間を過ごす「孫宿り」プロジェクトの一場面です。

かつて賑わいを見せた信濃地方の「湯ノ坂町」が、人口減少と高齢化により旅館の灯が消えかけていた。しかし最近、その町に小さな奇跡が起きている。きっかけは、都会で暮らす会社員・望月慎一(36)の祖母、望月春乃(80)が始めた「孫宿り」プロジェクトだった。

「孫宿り」は、町内に点在する古民家や未利用の温泉宿を活用し、都市部で働く孫世代・子世代がオンラインで本業を続けながら、祖父母世代と“同居”スタイルの期間限定ワーケーションを体験するプロジェクト。春乃さんは自身の旅館跡を「テレワーク対応の祖母宿」として改装し、SNSで呼びかけたことで予想以上の反響が寄せられた。

「春に初めて集まったのは、関西や関東の30〜40代の孫世代12名と、その家族たち。春乃さんたち地元のお年寄りが“おばあちゃん食堂”で地元野菜のランチをふるまったり、子どもたちが畑や川で遊んだり…久しぶりに家の中が笑い声であふれました」と、春乃さんの孫・慎一さん。リモート会議中に縁側から猫が侵入してくるハプニングも人気に火をつけ、各宿に「孫予約」が殺到。町の小学校跡地でも、普段使われていない工作室や音楽室をコワーキングスペースに整備し、誰もが快適に本業と田舎暮らしを両立できるようになった。

孫世代は都会での忙しい日々の合間に、地元伝統の味や人情に触れ、世代や関係性の“壁”を超えたふれあいが生まれている。IT企業勤務の名取結衣さん(29)は「普段顔を合わせづらい祖父母とも、日中は仕事に集中し、夕食後に一緒に温泉に入る…心がぽかぽかになります」とにっこり。初めは町外者を受け入れることに戸惑いもあったという地元の杉山一郎さん(74)は、「今ではこの変化がうれしくて。子や孫の世代と同じ屋根の下で過ごす時間が、何よりの宝物です」と話す。

首都大学の希志本教授(地域共生学)は「地方移住やUターンは従来“生活基盤を移す”難しさがあったが、孫宿りのような“ちょい住み×テレワーク”なら、人口減少社会でも都市と地方の絆がゆるやかに生まれる。全国の高齢化集落にも希望になる」と評価する。町役場も、今後は副業兼業の促進や地元農産品オンライン直売、遠隔介護支援なども連動させていく計画だ。

SNSでは「#孫宿り」「#祖母宿ワーケーション」といったタグで、訪れた人々が“田舎の家族時間”や絶景テレワーク風景を次々とアップ。「自分の町でもやりたい」「祖父母に会いたくなった」といった声も広がっている。かつて消滅寸前と危惧された小さな温泉町――そこに今、世代や場所を超えて、人と町とが新たな縁を紡いでいる。

コメント

  1. 素敵な取り組みですね!うちも小学生の子が2人いるので、自然の中でのびのびと遊ばせてあげたいなと思いました。おばあちゃん食堂のご飯も絶対おいしいだろうな…こういう場所が増えてくれたらいいなぁ。

  2. わしも湯ノ坂町の隣の集落で暮らしとる者です。最近若い人や家族連れが歩きよるのを見て、ほんとに町が息を吹き返したなぁと感じてます。昔みたいな活気が戻ったようで、心からうれしいです。

  3. 大学の課題で地方活性化を調べていたので、まさに理想の事例です!祖父母の家には年に一回行けるかどうかなので、普段の生活の中でつながりを持てるって最高だな~。卒業したら自分も行きたいです!

  4. 猫がリモート会議に乱入って…癒されすぎる(笑)!都会の狭い部屋でパソコンとにらめっこの日常だったから、こんな温かい人たちとふれあいながら仕事できるの、ちょっとうらやましくなっちゃいました。

  5. ふるさとが元気になる話は読んでてほっとします。こういうプロジェクト、全国に広まったらきっと色々な町が笑顔になれそうですね。僕の田舎でも孫宿り、誰か始めてくれないかなあ。