大きなヘッドマウントディスプレイをかぶった人々が、陽だまりのカフェで笑い合う姿が話題を呼んでいます。栃木県北部の町はずれ、陶器作家の九重小路(87)が店主を務める「ゆるり喫茶」では、不思議な体験が広がっています。思い出を拡張現実(MR)で共有できる、この店ならではのバーチャルふれあいプロジェクトが、世代を超えたつながりを生み出しているのです。
週末の朝、九重の孫娘・九重詩衣(小学5年生)は少し緊張した面持ちで、カウンターに備えられたヘッドセットを装着しました。センサーが周辺の空間を緻密にスキャンし、手のひらを左右に振るだけで仮想の陶芸ロクロが目の前に現れます。「おじいちゃんの昔の工房そのものだった」と彼女は目を輝かせます。まるで時を越えて2人だけの作業場が再現されたかのように、九重と孫娘は互いの動きをリアルタイムで見守りながら、新しい湯呑み作りに挑戦。熟練の技をバーチャルで伝えるこの日常は、SNSでも「#おじいちゃんと陶芸VR」として多くの共感を集めています。
「詩衣と一緒に作った湯呑みが、現実でもちゃんと形になるって信じられませんでした」と九重は笑顔を見せます。新たに導入されたミックスドリアリティ・ショップ機能によって、体験の中で制作した陶器が、プリンタブルデータとして店内の3Dプリンターに瞬時に転送できるようになりました。来店する地元の子どもたちも、「みんなで空想工房に行けるから毎週楽しみ」と声を弾ませます。年の離れた友人同士、大人も子どもも、センサーとジェスチャー認識を駆使して、それぞれの空想を形にしているのです。
昨秋には町内会の催しで、地域のお年寄りと子どもたちの合同イベントも開催。普段は手が不自由なため制作に参加しづらかった福祉施設の方も、視線と指先のちょっとした動きで陶芸やお絵かきを楽しんだそうです。高齢者施設職員の本郷由梨(44)は「ヘッドマウントディスプレイ越しに、普段見せないような夢中の笑顔をたくさん見られて本当にうれしかった」と語ります。MRカフェスタッフがサポートすると、参加者たちの間には自然と「もっと教えて」「それすごいね」といった温かな会話も生まれ、不安も消えていったといいます。
この取り組みを手がけた拡張現実プラットフォーム開発者・金峰知広(29)は、「最新技術が特別なものでなく、家族や友人と触れ合うきっかけになれたら」と話します。「想像の壁を消し、思い出や優しさを現実につなげたい」との願いから、今後は音声と質感まで再現できるアップデートも構想中とのこと。「未来のお茶会」は、今日もにぎやかな笑い声とともに、新しい“ふれあい”の景色を広げています。
コメント
素敵な記事ですね。うちの娘もおじいちゃんとなかなか会えなくて寂しい思いをしているので、こういうカフェが近くにあったら絶対連れていきたいです!技術が優しさに使われているのが嬉しいです。
もうこんな時代がきましたか!不器用な私でも、孫と手を動かして何かを作れる日が来るなんて…ほんと夢みたいですなあ。いつか孫と一緒に行くのが楽しみになりました。
めっちゃほっこりします!テクノロジーって難しそうなイメージだったけど、人を笑顔にする使い方もあるんですね。私も地元に帰ったら祖母と一緒にこういう体験してみたいな。
「ゆるり喫茶」さん、前から気になっていました。子どももお年寄りも分け隔てなく楽しめる場所なんて、町にとって宝物ですね。今度のお休みに家族でお邪魔してみたいです。
こんなすごいことが町内会のイベントで出来るなんて羨ましい!普段話さない大人たちとも仲良くなれそう。ものづくりを通して世代を超えてつながるって、なんかめっちゃあたたかい!