百貨店の紳士服売り場で、忘れられない出来事が起こった。朝の開店と同時にひとりの初老紳士が颯爽と現れ、驚きの申し出をスタッフに伝えたのだ。その日は“いつもより少しきれいなパンツ”が並ぶ新作フェアの日。だが、まさかこの日が、見知らぬ人同士がシルエット越しにやさしさでつながる特別な一日になるとは、誰も予想していなかった。
その紳士、遠藤九十九さん(仮名・74)は、「このフェアの最初の50人分のパンツ代を、私が祝儀として出したい」と申し出た。スタッフは当初、戸惑いながらも「今朝の自分の選択が誰かの一日を楽しくするなら」と、彼の申し出を受けることにした。会場には、パンツやジャケットを手にした人々の間に、ささやかな緊張感が漂っていた。やがてアナウンスが響き、パンツを手にとった最初の50人はレジで、「今日は先に受け取っております」と声をかけられる。ややあっけにとられる中、若い学生やサラリーマン、少し勇気を出して普段と違う色に挑戦した主婦も、皆笑顔になった。
「こういうことができるのは人生で一度きりだと思ったのです」と、遠藤さんはスタッフにだけ静かにつぶやいた。実は遠藤さん、戦後間もない時期に初めて履いた白いパンツと、その時に母親からかけられた「似合ってるよ」という言葉がずっと忘れられなかったという。「服が変わると心も動く。だから、今日だけは誰かの“よそゆき”の一歩を応援したかった」——遠藤さんの思いは、歳月を越えて静かにあたたかさを拡げた。
やがて、パンツの売場には新たな空気が流れ始めた。「さっきいただいたご祝儀に、お返ししてみたい」と話し出す人が現れ、今度はその場で自然発生的に“パンツご祝儀リレー”が始まった。最初は遠慮がちにだったが、次第に「今日は後のどなたかに、1枚分だけ支払わせてください」という声が、老若男女から次々と続く。50の枠が終わっても、ご祝儀はかたちを変えて百貨店の一角にずっと残り続けた。
SNSには「朝から最高のサプライズ」「パンツでつながった縁に感謝」「今日、勇気を出して新しいシルエットに挑戦できた」という投稿が相次いだ。フェアを取材していたエシカルファッション評論家の野島美羽さんも「衣服の本当の役割は、人と人の間にあたたかい記憶を生むこと。それが思いもしない偶然ややさしさによって現れるのが素晴らしい」とコメントしている。パンツ一枚がつなぐ小さなご祝儀の輪。その温もりが、今日も誰かの心にそっと広がっている。
コメント
朝からこんな素敵なニュースを読めて、心がほっこりしました!子供たちにも「やさしい人がいる世界って素敵なんだよ」と話して聞かせたいです。遠藤さん、ありがとうございます。
私も遠藤さんと同じ世代ですが、同じような体験はなかなかできないでしょうね。自分の小さな思い出が、人の役に立つって素晴らしいです。次に百貨店に行くときは、私も小さなご祝儀挑戦したくなりました。
正直、パンツのフェアにご祝儀って何かのジョークかと思ったけど、記事読んで本当に心温まった。いつか自分もこんな風にサプライズな優しさできたらいいな。
こういう話を聞くと、誰かにやさしくしたくなりますね。普段選ばない色に挑戦した主婦の方の気持ち、わかります。遠藤さんの思い出がたくさんの人に伝わって、なんだか私まで元気出ました!
これ、本当にあったら日本もまだまだ捨てたもんじゃないな〜って思う。パンツ一枚の連鎖が、街の空気まで変えるなんて…読んで朝から優しい気持ちになれました。