春の日差しがあたたかい白鳩町。かつて静かなこの町に、今、新しい民主主義の風が吹いている。広場のガーデンテーブルには、長老クラブの藤田富美子さん(74)が慎重にスマートフォンを見つめ、近所の小学生・園部駿介くん(11)が隣で画面をのぞき込む。世代を超えた“ご近所ネット議会”——白鳩町は、誰もが直接参加できるネット投票方式の小議会を、全国で初めて本格導入した町として、微笑みに満ちた変化を迎えている。
導入のきっかけは、町の郵便局長・渡会良一さん(58)が提案した一通の回覧板だった。「もっとみんなで町のことを決めたいね」という素朴なつぶやきが、町内掲示板に投げかけられたのだ。町長の石川有理子さん(46)は、「みんなの小さな願いや困りごとを、どんな人にも届けたい。だったらネットで集まろう」と決断。町役場内に“なんでも相談室”ができ、操作の不安がある高齢者のためのサポートチームも誕生。パソコンが得意な中学生たちが“デジタルお助け隊”となり、スマホの使い方講座や議案相談会を開く様子が町のあちこちで見られるようになった。
町議会に提出される議案は、「通学路の花壇に虫よけを増やしたい」から、「公園のベンチを塗り替えよう」「夕暮れのお散歩タイムに音楽を流しては?」といった日常の願いまで多彩。議案は、オンライン掲示板で全住民が投票できる。導入から半年、驚きの変化が続いている。最初に可決されたのは、70歳の花田七海さんが提案した「雨の日もピンクの傘で町を彩ろう」プロジェクト。小学生が学校から持ち帰ったアイデアがそのまま議会で採用され、傘の無料貸出ボックスが商店街入り口に設置されることになった。
町内の日々の風景も変わった。無口な魚屋の新山侑一さん(61)も、売り場の休憩時間にネット投票を楽しむようになった。「こんなにみんなの声がすぐ反映されるなんて」と語り、鍵っ子のミユちゃん(9)は「はじめて大人と一緒に町のことを考えた」と笑顔を見せる。全世代が“自分の町”を体感し、画面越しだけでなく、商店街や公園でも住民同士が議案について語り合う姿が増えた。
SNSの声も多く寄せられている。30代会社員の沢村圭一さんは「娘と一緒に議案に投票するのが週末の楽しみ」と投稿。専門家の憩い市立大学・末吉文彦教授(政治学)は「代議制と直接参加のバランスを町単位でこんなに優しく実現している例は珍しい。互いを思いやることが、こんなに政治を温かくするのか」と驚きを語る。今日も白鳩町では、誰かの小さな声が確かに誰かに届き、静かな広場の木漏れ日の中で、明るい対話が続いている。
コメント
うちの小学生の息子も最近「町のこと一緒に考えてみたい」と言い出して、親子で参加するのが毎週の楽しみです。子どもと大人が一緒になって町づくりに関われるなんて、本当に素敵な取り組みですね。励まされます!
最初はスマホなんて敬遠していたんですが、若い子たちが懇切丁寧に教えてくれて助かりました。皆のアイディアがすぐ実現につながるのは胸が熱くなります。これからも若い世代と話しながら町をもっと良くしたいです。
デジタルお助け隊で参加していますが、おじいちゃんおばあちゃんが慣れなくても根気よく練習したり、大人になっても希望を出せるのが面白いなと思いました。楽しい体験ですし、他の町でも広がったらいいな!
昔は町のことなんてあんまり考えなかったけど、スマホいじってたらつい議案に投票してたり(笑)。普段話さない人ともネットのおかげで繋がれて、なんか前より町が明るくなった気がして、嬉しいわ。
引っ越してきて間もないですが、このネット議会に参加して初めて“自分も町の一員だ”って感じられました。ピンクの傘のプロジェクトも可愛い!関心の薄かった地域のことが、急に身近に思えて嬉しいです。