狂言ユーチューバーが紡ぐ新フェス “面”がつなぐ里山に笑いと感動の輪

色とりどりの面をつけた町民たちが屋外の舞台で和太鼓を演奏し、笑顔あふれる伝統芸能フェスの一場面。 伝統芸能
美里町の伝統芸能フェスでは子どもから大人まで面をつけて舞台を楽しんだ。

日本海にほど近い美里町。少子高齢化が進むこの静かな町に、ここ数ヶ月、不思議な熱気が広がっている。話題のきっかけは、狂言師の家系に生まれた大学生・蒼井楽(あおい がく)さん(20)が地元で始めた動画配信と、そこから巻き起こった“伝統芸能フェス”だ。きっかけはひとつの思い――「みんなで面(おもて)をつけて、大人も子どもも笑いたい」。その小さな願いが、今や町じゅうを巻き込み、和太鼓や踊り、ユニークな地産グルメも集う一大イベントとなった。

蒼井さんは小さな頃から家族に狂言の所作を学びつつ、YouTubeの世界にも憧れていた。「面って、ふしぎな力があるんです。つけるといつもより思い切り笑えるし、本当の自分とも会話できる気がして」と語る蒼井さんは、伝統の“狂言の面”を紹介する動画を公開し始めた。祖父・蒼井源伍さん(75)が監修したオリジナルの動物面や、町の高齢者たちが紙粘土で作った“新人面”、さらには子どもたちと一緒に作った野菜面など、動画は瞬く間に評判となり、美里町産の面作りが人気コンテンツとなった。

そんな中、いつしかコメント欄に「実際に面をつけて舞台をやってみたい」「一緒に太鼓を叩いてみたい」との声が寄せられるように。そこで蒼井さんが町の青年団に声をかけ、オープンエアの“伝統芸能フェス”の準備が動きだした。出演者の条件はただひとつ。「面を身につけて舞台に立つこと」。町の農家・堀内歩美さん(44)は、トマトを模した面に赤い法被で参加し、「こんなに笑ったのは久しぶり」と涙ぐんだ。地元高校の和太鼓部も友情出演し、「面白さと伝統が一緒に残せるイベントを、卒業しても続けたいです」と語った。

フェス最大の盛り上がりは、“即席狂言バトル”。くじで選ばれたお題「忘れん坊の大根」「走る郵便屋さん」などを、面をつけた町民たちが見事なアドリブで演じ合った。会場に設置された大型スクリーンには、蒼井さんが生配信でコメントを拾い、SNSでも「#面フェス」で反響が広がった。読書サロンオーナーの紫原美智子さん(62)は、「都会から来た友人が『狂言ってなんだか難しそう、って思ってたけど、今日でイメージが変わった』と言ってくれてうれしかった」と微笑む。

地域活性の仕掛け人・永澤慎一郎さん(地方創生コンサルタント)は「面という非日常ツールが、町民どうしの“本音の笑い”を引き出しているのが素晴らしい。伝統芸能は祭りや動画でもっと自由に遊べるんですね」と分析する。現在、蒼井さんのチャンネル登録者数は町の人口の2倍を超えた。次回フェスでは「視聴者参加型のリモート面づくりワークショップ」も構想中だという。伝統芸能とYouTube、そして何より“みんなの笑顔”が生んだこの幸せな輪は、静かな里山に今日もやさしい風を運んでいる。

コメント

  1. 子どもたちと一緒に野菜面を作ったお話にほっこりしました!伝統芸能って難しそうと思ってたけど、家族で気軽に参加できるなんて素敵すぎます。フェスの開催、とても応援しています。

  2. 私も高齢者のひとりですが、紙粘土で面を作ったり、みんなと笑い合える場があるのは本当に嬉しいことですね。蒼井さんや町の皆さんに感謝します。来年こそは私もトマト面で参加したいです!

  3. 和太鼓部の先輩が出ててビックリ!面フェス、映像を観て元気でました。伝統ってダサいと思ってたけど、こんなふうに自由にできるなら自分も参加してみたくなります♪

  4. 近くの町に住む者です。美里町の盛り上がりが羨ましい!フェスに参加した知人が本当に楽しかったと言っていました。地元同士の交流が増えるこういうイベント、どんどん広がってほしいです。

  5. なんか、こういうの見ると心があったかくなるなぁ。面をつけて普段は言えないことも言える気がするし、みんなでワイワイできるの最高やん。次回はリモートでも参加できるって?絶対やってみたい!