山間の町に一年でいちばん温かな光がともる季節がやってきた。橙色のランタンが野道を照らし、歩く人々の胸の中に静かな希望を灯す——その材料は、地元の旬の味覚から生まれるちょっと不思議な“食べられるランタン”だ。
奈良県南部の暦町では、毎年秋の実りの終わった頃に『橙のひかり祭り』が開かれる。今年で10回目を迎えたこの祭りは、最初は地元農家の三田青葉(みたあおば・59)さん一家が、収穫しきれなかった無農薬ミカンのフードロスを何とかしたいと自宅前で小さな即売会を始めたことがきっかけだった。しまいきれず熟しすぎたミカンをランタンに見立て、和紙のように薄く剥いた皮を乾かして灯りのカバーに仕立てたのが大ヒット。今では町中の畑で収穫されるミカンや柚子、カボチャを使い、誰もが参加できる手作りランタン作りワークショップが行われている。
参加者は自分で好きな果実を選び、丁寧に皮を剥いて乾燥させ、そこへLEDキャンドルを入れてオリジナルランタンを作る。完成したランタンは、その夜、町の小道や畑の畦に並べられる。鮮やかな橙と金色の光が町を包み、訪れた人も地元の人も、みな自然と笑顔になる。参加した小学4年生の名取咲奈(なとりさな・10)さんは、「自分で作ったランタンをみんなで灯せて嬉しかった。ミカンのいい匂いがして、おうちでもやってみたい」と瞳を輝かせた。
もう一つ、この祭りならではの特徴は“食べて癒やす”をテーマにした取り組みだ。祭りの後、ランタン用に果実の中身だけくり抜いて冷凍保存されていたものを使い、農泊宿のキッチンや食育イベントで特別スイーツやジャムづくり講座が開かれる。果実本来の甘さを活かした無添加のメニューは、誰もが安心安全に味わえると評判だ。祭りの運営代表・石上快斗(いしがみかいと・36)さんは「地元農家さんの思いも、旬の美味しさも、丸ごと楽しんでもらえるようにしています。ランタン作りで小さなフードロスもなくなって、みんなの笑顔が広がることが何より」と語る。
今年は隣町の中学校や都市のフェアトレードショップも協力し、地元産の果実を使ったオリジナルランタンセットが全国に贈られた。SNSでも「夜道がオレンジの光で夢みたい」「食べ物で地元とつながれるの、ほんとうに素敵」と感動の声があふれている。橙のひかり祭りは、小さな山里を“旬の幸せ”で満たす、優しさの灯としてこれからもたくさんの家族や友人を照らしていく。



コメント
子どもと一緒にぜひ参加してみたいお祭りですね!食べ物の無駄もなくして、みんなの心まであったかくなる取り組みって本当に素敵です。うちでもミカンの皮でランタン作り、チャレンジしてみようかな。
こういう地域の知恵と優しさ、最近はなかなか見かけなくなりましたねえ。夕暮れの光景を想像するだけで懐かしい気持ちになります。いつか実際に見に行ってみたいものです。
食べ物でアートもしてフードロスも減らせる、この発想めっちゃクリエイティブ!地元の力を信じてみんなで作るのがいいですね。都会でもこんなイベントできないかな?
隣町だけど、先日おすそ分けでランタンセットもらいました!ミカンのいい香りがして小道に並べるだけで家族も喜んでました。来年は自分もワークショップに参加してみたいです。
昔は収穫の後にご近所で集まってよくお祭りをしたものです。今もこんなふうに地域の人たちの手で幸せが作られていると思うと、胸がぽかぽかになりました。若い方にもずっと続けてもらいたいです。