人と人とのつながりが希薄になりがちなこの時代、一つのベンチが小さな奇跡を起こしている。岡山県北部の山間にある湧水町の町内会で、デジタル技術と昔ながらの井戸端文化が出会い、新しい地域共生の形が誕生している。
湧水町若草地区の公民館前に設置されたのは、その名も『電子長ベンチ』。見た目は昔ながらの木製ベンチだが、座面に静かに光る五つの丸いボタンが埋め込まれている。町外や海外に引っ越した人でも、自宅や公園、時には病院や介護施設からスマートデバイス経由でこのベンチとつながり、“仮想ベンチ”に一緒に座ってお茶をすることができる仕組みだ。
この試みは、毎月の町内会議に欠席が続いていた家族たちを思いやった町内会副会長の大道寺実(65)さんの発案。大道寺さんの息子・航平さん(34)は東京在住で、地元のイベント情報や近所の話題にふれたくても距離が障壁になっていたという。「町のベンチでおしゃべりする感覚、子ども時代から大好きだった。その時間を取り戻したくて」と航平さんは語る。
システムは地元ITサークル『水音組』が無償で開発。ボタンを押すと町のだれかが自分のアイコンとともにベンチに“座る”仕組みで、そのまま音声やちょっぴりリアルな3D映像で参加できる。子育て中で外出できない新米ママや、家族とともに介護生活を送るお年寄りも、ベンチの向こうに“ご近所”の気配を感じることができるようになった。「去年引っ越したおばあちゃんとも、茶話会で会えるのよ」と笑顔を見せるのは、町内の主婦・緒方陽子さん(39)。交流をきっかけに、離れて暮らす人同士で「赤ちゃん成長自慢の会」「みんなで夜桜実況」など新しい“集い”も生まれている。
町の公式SNSには『今朝もベンチに大行列!』『久々に子どもの声聞けて涙が出た』など、心温まる投稿が日々並ぶ。社会的孤立の解消にむけ、町外からこの仕組みを学ぼうと視察に訪れる地域も急増中だ。地域共生や子育て支援の枠を超え、時代や距離さえも越える“電子長ベンチ”。誰もが誰かとつながれる風景が、ゆっくりと日本各地に広がり始めている。



コメント
小さい子がいるので外出もままならず、なかなかご近所と交流できずにいました…!こんな風にベンチ越しにみんなと話せるなら、育児の悩みもシェアできて嬉しいです。本当に素敵なアイデアですね。うちの町にも来てほしいです!
昔は近所の縁台で毎朝将棋を指した仲間も、今ではそれぞれ離れてしまった。こんなベンチがあれば、みんなの声がまた聞けるかもしれませんな。新しいけど、なんだか懐かしい…いい時代になったものです。
実家を離れてから地元の話が恋しかったので、こういう仕組みが本当に羨ましいです!サークル活動でも使ってみたいかも。地元をつなぐ新しいカタチですね。どうやって作ったのか、ITサークルさんに弟子入りしたい!
普段あんまり顔を合わさない方とも、こうやってベンチ越しに自然とおしゃべりできるって、すごくいいなぁって思います。うちのまわりでも『お久しぶり〜!』って声、もっと聞こえてきたらいいのにな。
最初は「電子ベンチ?」ってちょっと怪しい気もしましたけど、記事を読んだらめっちゃあったかくて、素直にいいなって思いました!離れた家族や友達とも気軽に集まれるのはありがたいです。子どもたちにもこういう経験させてやりたいな〜