温泉で名高い鴫野(しぎの)町の冬。商店街の灯りはどこか控えめだったが、その中心にある小さなパン屋「うららベーカリー」に毎朝だけ、たくさんの笑い声が溢れるようになった。店主の佐原光一(38)が始めた、まち全体を巻き込む“街まるごとミュージカル”が、予想外の反響を呼んでいる。
発端は、佐原さんが「お客さんを元気づけたい」と思い立ったことだった。ブロードウェイで修業した経歴を持つものの、家業を継いでパンづくり一筋の毎日。しかし、心のどこかに抑えきれない“生舞台”への憧れが残っていた。「パンは人を優しくする。舞台も同じじゃないか」。そう口にした佐原さんは、ある朝訪れる常連客たちの前で、突然歌い出してしまった。窓際の老人会が手拍子し、学校帰りの中学生が振付を付け始めると、あっという間に店内が“ミュージカル劇場”に早変わりしたという。
SNSでその模様が拡散され、近隣の衣料店が“夢見る衣装”を作って差し入れ、花屋は舞台装置に見立てたフラワースタンドを置いた。佐原さんを座長に、商店街の仲間や小学生、時折パンを買いに来るお巡りさんまでが出演者となり、金曜夕方になるとアドリブ満載の公演が始まる。決して派手ではないが、パン屋の香りと歌声、子どものダンスが、訪れた人たちの目尻を下げている。
今年に入り、東京の大手劇団から「地元色たっぷりな演出を見に来た」と視察の依頼が舞い込んだ。劇団四季経験者の演出家、神崎理央(42)は「プロの舞台でも見失いがちな“つくるよろこび”がある」とコメント。地元町内会は、春には商店街を使った“全町ミュージカルストリート”を企画し、高校生デザイナーが新しいチケ発カウンターを設けることになった。
「自分の推しはパン屋の佐原さん!」という声もSNSで増加し、全国から“推し活”遠征組が集うように。先週は、ブロードウェイ来日公演のスターが突然パン屋を訪れ、サプライズ共演を果たした。「舞台俳優はどこでもスターになれる、そう実感しました」と佐原さんは恥ずかしそうに笑う。
舞台を観終わった常連客の間では「次の金曜はどんな物語が生まれるだろう」という期待と優しさが広がっている。鴫野町の小さなパン屋が生み出すこの奇跡は、まだ始まったばかりだ。


コメント
パン屋さんでミュージカルなんて素敵すぎます!うちの子どもたちも歌ったり踊ったりが大好きなので、ぜひ連れて行ってあげたいです。こんな場所が町にあったら、毎日がもっと楽しくなりそう!
昔は商店街ももっと賑やかだったけど、こういう行事のおかげでまた活気が戻ってきて嬉しいですね。歌とパンの香りで心が元気になります。佐原さん、ありがとう。
Twitterで見て知ってたけど、実際に見に行ってめっちゃ感動しました!みんな楽しそうで、自分も踊りたくなっちゃった(笑)。こんな町で青春送りたいな~!
うちの店も衣装で参加させてもらってます。みんなが一緒になって盛り上げてる感じがとてもあったかいです。小さい町だからこその一体感、大切にしたいですね。