週末ごとに小さな炎が灯る家がある――。東北地方の山間に暮らす大矢根家では、自宅リビングで“円卓キャンプファイヤー”が恒例となった。家族五人が手作りの大きな丸テーブルを囲み、中央の安全なバイオエタノール火鉢でやさしい火を眺めながら、季節ごとの手料理を楽しむ。絵本の1ページのような、そんな特別な晩ごはんは、世代も個性も違う家族の心を繋ぐ小さな奇跡になっている。
フィールドワーク好きなパパ、大学で環境教育に取り組む大矢根浩大さん(45)は、新しい“おうち団らん”の形を発案した。「下の子が喘息気味で屋外キャンプは難しかったけれど、みんなで火を囲む安心感は残したかった」と浩大さん。庭で眠っていた丸太や古材を集め、半年かけて特注の円卓を完成させた。真ん中には耐熱ガラスで守られた火鉢、炎を安全に眺めながら、ゆっくり食事ができる仕組みだ。
初めての“おうちキャンプ”で並んだのは、浩大さん自慢の野菜カレーと、母・友絵さん(42)の手作りパンスープ、長女の美湖(高1)が焼いたカラフルなマシュマロ串。五歳の双子りんとれいは、お皿の中からカレーのジャガイモをこっそり家族の皿へ“引っ越し”させていた。焚き火の明かりを受けた食卓には、いつもの笑い声と、それを包む静かな安心感が満ちていたという。
SNSでも家族の“円卓キャンプファイヤー”写真は話題に。“テーブルの火を眺めるだけで、1週間の疲れがとれる”、“これなら忙しいパパもママも、週末は家族の輪にすぐ戻れる”など共感の声が広がった。終活を考える祖父の誠一さん(72)が「このテーブルは孫たちに残すよ」とジョーク交じりに宣言すると、家族全員から「ずっと皆で囲もうね!」と歓声が上がったという。
地元の生活文化研究者、堀江怜花さん(38)は「“囲む”という行為そのものが家族の絆を深める。都市部でも導入できるこの新・団らん術は、世代を超えて広まってほしい」と語る。大矢根家の小さな火は、ご近所の夕餉にも、遠くオンライン食卓にも“あたたかい輪”を広げ始めている。火を囲む笑顔は、時代や場所を選ばない――そう証明する物語が、いま静かに家々へ伝わりつつある。


コメント