歌う川とカエル合唱団──市民科学がつないだ“生物のコンサート”奇跡

春の夕暮れ、川沿いのベンチに座る家族連れが静かにカエルの合唱に耳を傾けている写真。 生態系保全
春の越後桜川で、市民がカエルの合唱に耳を澄ますひととき。

新潟県南部の清流・越後桜川で、春が訪れる夜になると川岸に不思議な音楽が響き渡る──そんな噂が町じゅうに広まり、散歩やピクニックを楽しみに訪れる人々が絶えなくなった。今年に入って発足したばかりの「越後桜川いきもの音プロジェクト」と、市民による“カエル合唱団”観察活動がちょっとした話題を巻き起こしている。

プロジェクトの発起人は地元高校の生物教師・草野智史(41)。昨年の春、越後桜川周辺の生態系を守ろうとラムサール条約への登録を目指す運動が起こる中、彼は生徒たちとともに夜間観察会を実施。「夜、岸辺で耳を澄ませると沢山のカエルがまるで本当に歌っているようだった」と語る草野氏は、その感動を地域のみんなで共有できないかと考えた。

活動のきっかけとなったのは、10歳の児童・有坂花音(小学校4年生)がSNSで投稿した約10秒の鶯色のカエルの大合唱の動画。動画には「これは絶対みんなで聴いた方がいい!」というコメントが添えられ、瞬く間に拡散された。地元の人々だけでなく、遠方からも“春のコンサート”を聞きにくる家族連れやカメラマンが川沿いに集まるようになった。

合唱団のオーディション(!?)を採点しているのは、実は参加した町民1人ひとり。事前に配布されるQRコードで、「今年のベストシンガーガエルはどの声?」と投票ができる。河川生態系に詳しい大学教授の澤田和人(柏崎大学)も、「市民の関心が自然保護へ向かう素晴らしい機会。カエルたちの声のデータが生態系の変化を可視化し、環境保全に役立つ」とコメント。集まった合唱音データをAIが解析し、希少種の割合や新たな移入個体も調査できるようになった。

長年、堤防の草刈りなどで声が減ったと嘆いていた地元住民・新田祥一(68)は「今年は今まで聞いたこともないほど沢山のカエルや虫の音が混じって、本当にコンサートみたい。町の人が川沿いを丁寧に手入れするようになったのも大きい」と目を細める。SNS上では『#桜川カエル合唱団』『#みんなで音の市民科学』といったハッシュタグも登場。川辺のベンチでは、親子で耳を澄ませたり、合唱に聴き入ったりする光景が当たり前になってきた。

来年からは、鳥たちのさえずりや水生昆虫のリズムも加えた『いきもの音楽祭』も企画中という。「自然と人が一緒になって季節を感じたり、守る喜びを分かち合えたら」と語る有坂花音さんの笑顔に、川も静かに応えるようにキラキラと輝いていた。

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