東北の奇跡の稲が繋ぐ、ほほえみの日本酒とエシカル懐石の饗宴

田植えをするさまざまな世代の人々とともに、笑顔で田んぼに立つ中年の男性農家の姿。 フードカルチャー
世代を越えて集う人々の手によって育まれる東北の田んぼには、優しさの輪が広がっています。

美しい田園が広がる東北地方で、ひと粒の稲から始まった“奇跡”が、今多くの人々を温かな輪で結びつけている。流通農家の小坂知紀さん(45)が始めた無農薬米の挑戦が、多世代の農家や食のプロフェッショナルたちと心を通わせ、いまや全国のテーブルとSNSをほころばせている。

小坂さんがたんぼに立つきっかけは、5年前に亡くなった祖母が残した古い日記だった。「みんなが笑顔で食卓を囲めるお米を作ってほしい」。その願いに背中を押され、農薬も化学肥料も使わず、虫や小さな生き物、土中の微生物とも共生する『やさしさ田んぼ』を始めた。初めは『理想論』と周囲に首をかしげられたが、近隣の三谷雅之さん(73)が「昔ながらを取り戻そう」と参加し、地元の中学生たちや高齢者がボランティアで田植えや稲刈りに参画。働く人や世代を問わず、つながりの場になる田んぼになった。

収穫された“やさしさ米”は、地元の酒蔵、伝代酒造とコラボレーションし、数量限定の無農薬純米大吟醸『結び糀』に生まれ変わった。特徴は、柔らかいのに凛とした香りと、どこか懐かしい旨み。その味にほれた懐石料理店「暁の膳」料理長、南野耕三さん(52)は「素材へのいたわりがとても感じられる。お酒のやさしさが料理も更に引き立たせる」と自慢のエシカル基準で仕入れた季節野菜や精進出汁と平和にマリアージュさせた。評判はSNSでも広がり、「#奇跡の米」「#微生物の力で乾杯」といったハッシュタグが盛り上がる。投稿者からは「子どもも安心して食べられる懐石なんて夢のよう」「生産者とシェフの顔が見えるから、幸せが倍増した」との声も多い。

さらに昨冬、同じ町のサードウェーブ系カフェ『霧笛珈琲』オーナー佐川麗(37)は、精米後に残る米ぬかから独自の“米ヌカラテ”を考案した。「捨ててしまうはずの副産物も、地域の恵み。“サードウェーブ”らしいサステナブルな喜びをお客様に届けたかった」と話す。カフェタイムには南野さんの店とのコラボスイーツ「発酵チーズケーキ」も人気メニューとなり、学生や高齢者が自然と集う、世代を超えた交流の場となっている。

フードジャーナリストの葉山悠太郎氏は「持続可能性とおいしさが同居すると、人は気づかぬうちに優しくなれる。この東北の物語は、食の力が生む『人の輪』の奇跡」と評する。今春、新たに東京の食育イベントにも招かれたやさしさ米プロジェクト。小坂さんは「全国に広げるつもりはなく、必要とされる場所にこの粒を届け、誰かの心をあたためたい」とほほ笑む。暖かなごはんと日本酒、そしてやさしさのリレーは、今日も東北の田園で静かに育まれている。

コメント

  1. 小坂さんのおばあさまの日記のくだりに、思わず涙が出ました。無農薬で育てたお米なら、子どもたちも安心して食べられるし、食卓の会話も自然と増えそうです。こういう温かい繋がりが全国に広がってほしいです。

  2. 昔はうちの田んぼも手作業でやっとったなぁ、と懐かしく拝見しました。今どきの若い人や学生さんが田植えや稲刈りを体験してくれて、本当にうれしいです。やっぱり、田んぼは皆のふるさとですね。

  3. 霧笛珈琲の“米ヌカラテ”、めっちゃ気になります!飲んでみたい…こういう地元の恵みを無駄なく活かすアイデア、すごく応援したいです。今度家族で行ってみます!

  4. SNSのハッシュタグから知って読みにきました。やさしさ米プロジェクト、エモすぎます…!生産者さんや地元のみなさんの思いに胸があたたかくなりました。私の大学の学食にも、こういうお米が来たらいいなと本気で思いました。

  5. 料理長さんの“やさしさ”へのこだわり、すごく伝わってきました。素材も人とのつながりも大事にするお店、応援したいなぁ。もし東京にも食べられるお店が出来たら、お友達誘って行ってみたいです!