“インフルエンサーカフェ広場”誕生—報酬より温もりでつながる新時代の案件探し

奈良の路地裏のカフェで、木製テーブルに並んだ色とりどりの瓶を囲んで人々が和やかに談笑している様子。 インフルエンサーマーケティング
カフェの中央テーブルに並ぶ“案件の種”の瓶を手に取る来店者たち。

古都・奈良の路地裏に、見慣れない看板が掲げられたカフェがひっそりとオープンした。扉には“インフルエンサーカフェ広場”とだけ書かれている。SNSでも拡散されずにいたこの場所が、最近ささやかな幸せをひろげていると話題になり始めた。

店主・桐嶋さや(34)の発案で始まったこのカフェは、いわゆる「案件マッチングサイト」とは対極の発想から生まれた。通常のインフルエンサーマーケティングは、拡散力や報酬金額で案件が決まっていくが、このカフェではそうした“数字”は一切使われない。訪れるのは、フォロワー数に囚われず『誰かの小さな幸せを見つけたい』と願うインフルエンサーと企業やNPO、そして地域のおばあちゃんまでもが並ぶ。

カフェの中央には、ずらりと並ぶ“案件の種”が入った色とりどりの瓶が置かれている。中には「町の落書き消しボランティアのことを伝えてほしい」「地元の梅干しにまつわる思い出を聞かせて」など、報酬ゼロの依頼から、手書きの感謝状や手作りおやつ付きの案件まで様々だ。インフルエンサーたちは瓶の蓋を開け、香りをかいだり中身を手に取ったりしながら、その日一番“たのしそう”だと感じる案件を選ぶ。

このユニークな仕組みが静かに広がるにつれ、SNSには心温まる投稿が溢れるようになった。「PRじゃない“おすすめ”のおすそ分けがうれしい」「報酬が感謝や笑顔になるのが本当に新鮮」といった声も多い。高校生インフルエンサーの阿部東吾(17)は「ここの案件をやる時は、“バズる”ことより、もらったおにぎりが美味しかった話を自分の言葉で届けられる」と語る。

専門家も新しい動きを歓迎している。杏葉大学の渡瀬瑛里子准教授(社会情報学)は「報酬や拡散効果が数値化される現代ですが、人の善意や地域の物語を媒介する“感情的報酬”の重要さが見直されている」と指摘する。また、小さな案件がカフェで紹介された翌日に地元の商店街に長い行列ができるなど、“心から心へ”伝わる力が地域にも波及し始めている。

桐嶋さんは語る。「この場所には“拡散力”や“影響力”という言葉すら似合わない時もあります。みんなで顔を合わせて、案件を一緒に楽しんだり、ご褒美にホットミルクを分け合ったり…そんな体験が、何よりも大きな報酬なのだと思います」。丁寧に紡がれた小さな幸せの物語は、今日もこのカフェからひっそりと広がっている。

コメント

  1. 子育て中の身としては、こういう温かい場所が地域にできるのは本当に嬉しいです!子どもたちにも「ありがとう」でつながる喜びを感じてほしいな。今度家族でカフェに行ってみたいです。

  2. 昔はみんな助け合って生きていましたが、今もこんなふうに人の温もりが大事にされている場所があると知って、ちょっと涙が出そうです。梅干しの思い出話、私も伝えたくなりました。

  3. この発想めっちゃ素敵~!SNSのいいねやバズより、リアルで誰かに“ありがとう”って言われる方が絶対うれしいと思う。私も友達と奈良行ったとき覗いてみたいな。

  4. うちの町にもこんなカフェがあったらどんなにいいかしら。おばあちゃんたちの手作りおやつ付き案件、想像しただけで幸せな気分になりますね。

  5. 数字とかじゃなくて、ただ楽しいとかうれしいとかで案件を選べるの、めっちゃ憧れます!“もらったおにぎりが美味しかった”って話、めっちゃ共感。自分もいつかこういう活動やってみたい。