青森県南部の小さな町、秋鶴町。駅前広場の大銀杏の木の下に、突如として現れた「ふれあい図書館」が、町を優しい話題で包んでいる。話題の中心は、地元の小学生たちと、今年春に移住してきたフジサキ家によって始められた、“読む、語る、つなぐ”をテーマにした新しいまちづくりの一歩だ。
今年4月に東京から町へ移り住んだ藤崎敬(41)・麻衣子(38)夫婦と息子の陽太(8)。町の人たちと自然になじむにはどうしたらよいか悩んでいたとき、陽太君が校庭で見つけた春の落ち葉を集めていたことがきっかけとなった。ある日、校長先生の許可を得て、陽太君は歴史を感じさせる大銀杏の下にブルーシートを広げ、“まちのひとが知ってるお話、きかせてください”と書かれた手作り看板とともに自宅の本と空ノートを並べてみた。
最初に立ち止まったのは、古くから町に住む小学校の用務員・斎藤進さん(73)。自分が子どものころに聞いた“銀杏の木に住む小人”の話を語りながらノートに書き留めてくれた。これを見た近所の主婦や中学生、駅前の鮮魚店の店主などが次々と足を止め、いつの間にかノートは“町の思い出”でいっぱいに。物語の中には、戦時中に疎開してきた家族と銀杏の木の思い出や、毎冬返ってくるカモの群れの不思議な習性まで、時代も年代もさまざまなエピソードが並ぶ。
この“ふれあい図書館”は、毎週日曜日、誰でも無料で訪れることができる。町内に一軒しかない本屋も協力し合い、読書好きの高校生が読み聞かせを担当したり、移住してきた家族と地元の人が一つの布団で夜を明かしながら昔話を語る『銀杏ナイトカフェ』という新たな集いも生まれた。SNSでは「ここにくると心の奥が温かくなる」「町のことをもっと知りたくなる」といった声があふれ、遠方からのワーケーション滞在者も、滞在先に推薦リストとして“ふれあい図書館”を加えるケースが増えているという。
藤崎さんは「最初は町になじめるか、正直とても不安だった。でも、小さなきっかけから、みんなが自然に集い始めた。大銀杏の下には、町中の思い出と未来が詰まっています」と微笑む。町役場も今後、町外からの短期滞在者向けに“ふれあい図書館スタッフ体験”のモニタープログラムを検討中だ。秋鶴町の小さな挑戦は、町の過去と新しい住人、そして未来へとつながる“優しい記憶のリレー”を、今も静かに育み続けている。
コメント
子どもを連れて一緒に行ってみたいです!皆で町の思い出を語って、優しい時間が流れる場所があるなんて素敵ですね。きっと陽太くんも新しい環境でのびのび成長できそうで、ほっこりしました。
私は秋鶴町に長く住む老人ですが、昔話を伝える場ができて嬉しく思います。皆で笑顔になれる場所ができたこと、町の宝物ですね。機会があれば、私も昔の四季の話を書き残したいです。
高校生です。こんな場所があるなら友達と日曜に立ち寄ってみたくなりました!自分も町の話や好きな本の読み聞かせ、参加してみたいです。移住してきた人とすぐに仲良くなれる町ってカッコいいと思います。
昔はご近所さんで夜な夜なおしゃべりしたもんだけど、最近は少なくなって寂しかったです。こういう“銀杏ナイトカフェ”とか、またみんな集まれる場所が生まれて本当にうれしい。藤崎さん一家にはありがとうを言いたいです。
この大銀杏の下なら、俺も自慢の魚の話でもしようかな?(笑)町の人みんなが集まってワイワイできるのは最高だよね。何か手伝えることあったらいつでも声かけてください!