「ありがとう」の気持ちを、ふわふわのパンで届け合う――そんな小さな革命が、山間の町・七郷市で静かに広まっている。そこに誕生したのは、パンを通貨として活用する独自の共助システム、通称“ぬくパン通貨”。きっかけは、一人の高齢女性が地元ベーカリーに語ったある願いだった。
物語の始まりは、介護と子育てを両立する菅野絵里子さん(36)の家から。ある日、菅野さんは子どもを保育園に送り届ける途中、週に三度しか開かれない小さなパン屋「ホシノベーカリー」を訪れた。そこで朝食用に購入した焼き立てのオートミールパンを、道端で困っていた松本鶴子さん(78)に半分分けたところ、「これで今日一日、頑張れそう」と鶴子さんは涙ぐみながらお礼を伝えた。そんな“ささやかな交換”から、地域全体でパンを通じた善意のリレーが始まった。
やがてホシノベーカリーの店主・星野直人さん(44)は、地域の福祉団体と協力し、「パン券」ならぬ、店で使えるぬくパンスタンプを考案。スタンプがたまると、パンが一つ無料でもらえる仕組みだ。スタンプは地域での“助け合い”に参加することで得られ、たとえば高齢者の買い物代行や子育て支援、資源分別活動への協力など、日常のちょっとした手助けが対象となる。
ジェンダーや立場に関わらず、誰でも助けたり助けられたりできるこの仕組みは、徐々に口コミとSNSで広まり、町内には「今日はパンを分けていただきました」「掃除を手伝ってスタンプ一つ」といった温かな声があふれている。福祉現場で働く社会福祉士の浅見慎一さん(29)も「ダブルケアで孤立しがちな家庭や、お年寄りの見守りにもつながっている」と語る。
特筆すべきは、“ぬくパン通貨”が単なる物のやり取りに留まらず、“気持ちを循環させる”新しい経済として機能し始めていることだ。地元中学生グループが廃棄予定の野菜でベジタブルブレッドを考案し、収益の一部を地域活動資金に充てるなど、資源循環とソーシャルビジネスの芽も育ちつつある。先日にはスタンプ5枚でベーカリー裏庭の菜園づくり体験に参加できるイベントも開催され、子どもたちと高齢者が一緒に土に触れ合う光景も生まれた。
「パンが、人を結んでくれるなんて思いもしませんでした」と星野さん。「この町の日常が、少しずつ優しくなっていくのを感じています」。七郷市発のぬくパン経済――そのぬくもりは、今日も町の片隅からまた一つ広がっていく。
コメント
子どもと一緒に読んで、すごくほっこりしました。パンでつながる優しさの輪、うちの町でも始まってほしいです。毎日のちょっとした支え合いが、こんな素敵な形になるのは感動です!
ベジタブルブレッドを中学生のみんなが考えたってところ、めっちゃいいと思いました!自分も地域活動にもっと参加したくなりました。パンで経済が動くなんて、未来っぽくてワクワクします。
昔は近所でおすそ分けが当たり前でしたが、こうしてパンがご縁をつなぐのは嬉しいですね。わたしもぬくパン通貨で助け合いに参加したいです。どこか懐かしくて、新しい取り組みに心が温かくなりました。
ほんと素敵なアイデア!パン屋さんの多い町ならではですね~。助け合いがこんなに美味しい形で広がるなんて、毎日が楽しそう。自分もホシノベーカリー、今度行ってみようかな。
このニュース、勇気をもらいました!“ありがとう”の気持ちがパンを通して循環するって、すごく社会福祉的です。いつか自分の町でも、こういう仕組みを作っていきたいなと思いました。