アートと人のぬくもりが出会うとき、思いがけない幸せが生まれます。木乃下町では、89歳の画家・早田光子さんがひとつひとつ手描きしたアートトイが、子どもも大人も巻き込む“小さな奇跡”になっています。絵を描くことが生きがいだという早田さんが紡ぐ心優しい話題に、町は穏やかな笑顔で包まれています。
早田光子さんは、かつて洋画を学び、今も毎朝必ずイーゼルに向かいます。最近、子どもたちの声が遠のいている町の広場を歩いていた光子さんは、落ちていた木の枝を拾い、その場で小さな人形を彫り、アクリル絵の具で色鮮やかな模様を施しました。「みんなで遊べたらいいな」と願いを込めて作りはじめたアートトイは、“光子人形”と呼ばれるように。やがて町の図書館やパン屋にも置かれるようになり、ひとつひとつ違う表情の人形に、町の人たちも興味津々で手に取っています。
そんな“光子人形”のひとつが偶然、小学生の中村勇馬さん(9)のもとに。勇馬さんは「おばあちゃんの人形と友だちになった!」と学校に持参し、クラスの話題をさらいました。「どんな夢を持ってる人形か考えるのが楽しい」と夢中になる子どもたちは、光子さんへの手紙を書き始めます。ある日、小学校の教室に光子さんが招待され、子どもたちとのアートトイづくりワークショップが実現しました。
「私の作ったものに、また誰かが新しい色や物語を加えてくれる。これほど嬉しいことはありません」と光子さん。光子人形をもらった大学生からは「幼い妹にもあげたい」という声が届いたり、地元のパン屋オーナー・佐々木誠二さん(46)は「光子さんの人形を見て、お店に昔話のパンを並べてみたんです。親子連れのおしゃべりの種になりました」と語っています。
美術史研究家の竹ノ内惠美さんは、「高齢になった今も、自分の創作を地域の子どもや大人と分かち合う光子さんの姿は、アートが世代と心の壁を溶かす力がある証拠」とコメント。SNSでも『#光子人形』の投稿が増えています。「今、世界が少し優しくなった気がします!」という声が、町とネットをそっとつなぎます。日々の生活の中で小さな芸術と出会った人々が、思い思いの色を重ねています。
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