朝の光がきらめく浜松市の公立小学校。6年生の高野紗英(たかの さえ)さん(12)は、左手首に巻いた深緑色の細長いバンドからピロリ、と小鳥のさえずりのような音が鳴ると、にっこり笑う。彼女が愛用するのは「森の診療所アプリ」に連動したウェアラブルバンド。自分の健康情報を日々記録し、身近な友達や家族、近所の高齢者と“健康絵本”を完成させる取り組みが、浜松市内の子どもたちの間でやさしい波紋を広げている。
このアプリは、こども達が自分の体調や気分、活動量をバンド経由で入力すると、オリジナルの“森の診療所”絵本が徐々に完成していく仕組み。心拍数や睡眠の質だけではなく、学校でどんな楽しいことがあったか、誰とあいさつしたかなど、日々の小さな出来事も絵本ページとして彩られる。特徴は、子ども自らが近くに住むお年寄りや家族へ“健康クイズ”やエールメッセージを送ることができる点だ。バンドの送信ボタンを押すだけで、相手のアプリ画面には色鮮やかな動物たちが駆け寄り、「今日は一緒に深呼吸しませんか?」とヒントをくれる。
市内で一人暮らしをする内山米子さん(73)は、この取り組みによって新しい毎日を楽しめるようになった。「孫たちが遠くにいるので時々寂しかったけれど、地域の子どもたちから届く“健康のお手紙”を読むと、心がポカポカして元気になります」と微笑む。紗英さんが送るクイズは「今日は元気の木に水やりした?」など、無理のない健康チェック。“答えることで自分のことも見直せる”と内山さんは話す。
アプリ開発に携わった浜松教育大学の三谷智彦教授(45)は、「子どもが“健康を教える先生”になることで、家族やご近所の方の健康意識が自然と高まっています。デジタル技術が“やさしさ”や“気遣い”の伝達役になれる一例です」と語る。また、地域住民がお互いの健康絵本を交換し合う催しも開催され、世代や障がいの有無を超えた笑顔の輪が広がっているという。
アプリへの感想やリクエストは日々市役所やアプリ運営に届く。その中には「子どもの声かけで毎日散歩に出かけるようになりました」「朝の深呼吸が日課になり家族も笑顔に」といった喜びの声が相次いでいる。専門家チームは今後、さらに交流の幅を広げるため、異なる地域や施設間の“健康絵本リレー”も検討中だ。紗英さんは「自分の送ったメッセージで誰かが元気になってくれたらうれしい」と新しいスタンプ案を考えながらバンドを見つめている。デジタルの力と子どもたちのやさしさが、生きる毎日に静かな奇跡を起こしているようだ。
コメント
小学生の子どもを持つ親として、こんな取り組みが自分の街でも始まってほしいです!家族みんなで健康を考えるきっかけになるし、子ども達も優しさを実感できて素敵ですね。
素直にうれしい取り組みですね。わしの孫も遠くにおって寂しいときがありますが、こういう声かけがあると生きがいが広がる気がします。浜松の皆さん、あったかい気持ちをありがとうございます。
いい意味でビックリした!自分が使ってるスマホやアプリで、こんなふうに誰かの役に立てるんだね。地元でも高校生バージョンとかやってみたいな。
うちの常連さん達も子どもたちの日記に癒されているそうです。お客様同士の話題にもなるので、街全体がほんわか明るくなっている気がします。さえちゃん達、ありがとう!
最初、デジタルが温かさを伝えるって想像できなかったけど…こういう形なら子どももお年寄りも笑顔になれるんですね。アイデアに拍手!うちでも子ども達に自然とやさしさを学んでほしいな。