小雨の降る週末、灯りのともるレストラン「カランドリエ」には、不思議な“空席”がいくつも並んでいた。その席は、予約できず、誰のものでもなく、だれでも座ってよい。ただしルールはひとつ。その席に座ると、誰かと必ず“ごはん”を分け合うことになる——。
この「空席レストラン」を企画したのは、元図書館司書の秋沢恵理子さん(44)。数年前から、偶然の食卓の出会いを仕掛けたいと考えてきた。きっかけは、自身の経験。「ひとりごはんが寂しいな、と感じた夜、見知らぬ人とおしゃべりできたら、きっと後味が全然違うのではないかと思ったんです」。恵理子さんが地元の生産者と協力し、地域食材を使ったメニューを用意、思い思いの空席に座った客同士には料理をシェアするカードが渡される仕組みとなった。
その夜、笑顔が絶えなかったのは、サラリーマンの志村貴志さん(29)と音大生の逸見いちかさん(21)のテーブル。貴志さんは仕事帰りにふらりと立ち寄り、いちかさんは初めての演奏会を前日に控え、緊張で食事ものどを通らなかったという。だが、店オリジナルのかぼちゃスープをすすりながら、互いの話に耳を傾けるうち、二人の手元には自然とシェア用のパンが重なった。「見ず知らずの人と心が通う不思議な体験でした。ひとくちもらったパンが、思いのほかあたたかくて…」といちかさん。
SNSでは『#空席レストラン』の投稿が話題となっている。「孤独を持ち寄ったら、テーブルの向こうに友だちがいた」「食卓ごとの短い物語に、心がほっとした」といった声が続出。常連となった主婦の福田遥さん(38)は、「一緒に食べた方と、毎月“自宅コラボごはん会”も始まりました」と嬉しそうだ。
恵理子さんは「『ごはんが余るのは、優しさの余白』だと思います。空席が、また誰かのやさしい時間のはじまりになって欲しい」と語る。店の扉が静かに開くたび、今日も静かな奇跡が生まれている。
コメント
素敵なお店ですね!子どもが成長して家族で食卓を囲む機会が減る中、知らない方とこんなふうにごはんを分けあえる場所があるなんて…心があったかくなりました。うちの子と一緒に行ってみたいなあ。
昔は近所でもっとごはんを分け合っていた気がします。最近は一人で食べることも多かったので、この記事を読んで懐かしい気持ちになりました。機会があれば、ぜひこのレストランにも足を運んでみたいです。
こういう仕掛けめっちゃ面白い!一人で外食するのちょっと寂しい時あるから、たまには見知らぬ人とご飯食べてみるのもありですね。ちょっと勇気いるけど、話のネタにもなりそう!
カランドリエ、前から気になってました!みんなが自然に笑顔になれる空間って本当に素敵。『ごはんが余るのは、優しさの余白』…この言葉、すごく好きです。うちの町にもぜひできてほしいなあ。
こういう場所があると、単身赴任中の自分にとっては救いです。毎日の夕飯が味気なかったから、誰かと食卓を囲むだけでこんなに違うんだなと感じました。記事を読んで気持ちが明るくなりました、ありがとうございます!