静かな午後、北の海沿い町にある『白灯台図書館』で、大きな話題が巻き起こっています。その主役は、図書館で暮らす一羽のペンギン、フジ谷ペンゾー(推定5歳)。彼が執筆した恋愛小説『波間に咲く言葉』が、書店大賞の候補作となったのです。
ペンゾーは2年前、海で迷子になっていたところを白灯台図書館の館長、倉本翠野(くらもと すいの)に保護されました。以来、読書好きの来館者と触れ合ううちに、なぜか文字に強い興味を示し、来館者の肩越しにページを覗き込む姿が目撃されていました。その賢さから子どもたちに“文学ペンギン”と呼ばれるようになり、自然と図書館の人気者に。
昨秋、図書館に通う高校生の花嵐晋一(はなあらし しんいち)が、パソコンを長く離席中に、気まぐれでペンゾーの好きな魚図鑑の隣にエディタを開いたままにしていました。戻ると画面には、仮名交じりで『すきです。よぞらのうみにあなたがみえる』と打たれていたという逸話が生まれます。面白がった利用者らは、ペンゾーが図書館の様々な恋愛小説を書くことを提案。魚型キーボードや防水カバーを寄贈し、「ペンゾー著」の小さな作品集が増えていきました。
そんなある日、常連の司書ボランティア・大森耀花(おおもり ようか)が、彼の文章をSNSに投稿したところ、想像を超える反響が。投稿には、『拙いけど素直であたたかい』『読むと涙が出る』『すごく不思議な安心感がある』との声が数多く寄せられ、出版社からの問い合わせも急増。編集者を通じてまとめられた短編連作『波間に咲く言葉』は、淡い恋心と海への郷愁、動物たちの友情が織りなされ、全国の書店に並ぶや否や、たちまち10万部突破という快挙となりました。
今ではフジ谷ペンゾーのサイン会に、子どもからお年寄りまで長蛇の列。ペンギン自身はサインのかわりに“ヒレ判”を押し、来場者にぬいぐるみをプレゼント。図書館は『読書でつながる幸せ』をキーワードに、誰もが自由に執筆できる“ペンギン文庫コーナー”を設置。全国から心温まる投稿小説も集まり、町はちょっとした文学ブームとなっています。書評家の白岡美智子(しらおか みちこ)は「ジャンルの壁を越えて、人と動物の優しさをつなぐ新しい文学史の一ページになるでしょう」と語り、SNSには『現実に“ペンギン作家”がいてくれたら、きっと世界はもっとやさしくなる』という声が拡がっています。
次回作が早くも期待されるなか、図書館ではクリスマスイブに『ペンゾーといっしょに読む夜』イベントが予定され、灯台の灯とともに世界に小さな幸せが灯りそうです。


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