「ありがとう」の数で商品が決まる?地元市場で始まった“感謝ポイント”新戦略

地元市場で魚屋の男性にお客さんが感謝の言葉をかけている様子と、背景にありがとうメッセージの掲示板が写る写真。 マーケティング戦略
感謝の気持ちが行き交う「ほほえみマーケット」の日常風景。

商店の軒先から聞こえる「ありがとう」が、広場いっぱいに弾む。全国に展開する市場チェーン「ほほえみマーケット」では、来場者の“感謝”を可視化する新しいマーケティング戦略が始まり、地域の絆と笑顔の輪がじわじわと広がっている。

新戦略の仕組みは極めてシンプルだ。来場者が商品やサービスに対して口頭で「ありがとう」と伝えるたび、“感謝ポイント”が溜まっていく。このポイント数が月末に集計され、スタッフだけでなく、その月の人気商品やサービスの開発に反映される仕組みだ。開発会議には感謝を集めたスタッフやお客の推薦者も特別参加できる。マーケット全体で「感謝」を商品に還元しようという斬新なアイデアは、発案者である企画担当の橘秋穂(42)にとっても挑戦だったという。

初月の集計では、鮮魚コーナーの塩野広志さん(55)が「さりげない声かけ」と「見事な魚さばき」で一躍“感謝ポイント王”に。彼への“ありがとう”が飛び交う様子はSNSにも拡散され、「こんなに嬉しい商店は初めて」との投稿が2万件を突破した。塩野さんは「言葉一つに笑顔をもらえる。ありがたいのはこちら」と照れながら、新商品の企画にも張り切り気味だ。

マーケットの掲示板には、来場者が心に残った「ありがとう」を自由に書き留めることができる。最新の商品企画会議では、この“ありがとう掲示板”から選ばれたエピソードをもとに、新しい野菜セット『まごころBOX』の開発が決定。掲示板に「子どもが初めてピーマンを食べられた」と書いた主婦の五十嵐瑞穂さん(37)も会議に招待され、「ただ気持ちを伝えたかっただけなのに、商品開発のチャンスになるなんて夢みたい」と笑顔を見せた。

専門家の間でもこの取り組みが注目されている。マーケティング研究家の南条堀博士は「人の心を起点とした商品開発は、ブランド価値を次のレベルに引き上げる。ターゲティングやイメージ戦略の新たな形になる」と語る。来年は全国50カ所の市場に感謝ポイント制度の導入が予定されており、“ありがとうの数だけ商品が多彩に生まれる時代”が訪れるかもしれない。感謝を伝える温かな空気が、商いの景色を静かに変え始めている。

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