老舗喫茶店の温もり、バーチャルで復活 “しあわせコネクション”がつなぐ心の輪

陽だまりの喫茶店のテーブルでVRヘッドセットを装着した高齢男性と高校生が並んで座っている写真。 イノベーション
閉店した老舗喫茶店の温もりをVRで体験する世代を超えた二人。

静岡県藤枝市の旧市街地に半世紀続いた喫茶店「しあわせ珈琲店」。惜しまれつつ幕を下ろして一年、常連客やご近所の人たちの間に、かつての味と空間を懐かしむ声が絶えなかった。そんな中、店主だった石橋弥一郎さん(71)のもとに届いたのは、一通の不思議なメール。「VR(バーチャルリアリティ)で、もう一度皆で集まれませんか?」

この呼びかけの発信源は、地元の高校2年生、上原実來さん(17)。幼い頃からこの喫茶店によく通い、店主とチェスを指した淡い思い出があるという。実來さんは独学でデータサイエンスを学び、3Dスキャンアプリとディープラーニング技術を組み合わせ、閉店後の店舗を見事なまでにVR空間へよみがえらせた。「本物の温度や香りまでは再現できないけれど、みんなの“心のチューニング”にはなれると思った」と、実來さんは笑顔で語る。

再現された『しあわせ珈琲店VR』には、喫茶のテーブルや飴色のカウンター、陽だまりのような照明までが忠実に再現。なにより特徴的なのは「しあわせシェアタイム」システムだ。誰かが店内で感じた幸福や思い出話をAIが記憶し、次に訪れた人へそっと届けてくれる。例えば、初めて訪れた中年男性が、店の隅に座ると「昔、七夕の日にここでプロポーズした人がいたんですよ」という過去の常連客のメッセージが優しく浮かび上がる。

このプロジェクトがSNSで拡散されると、全国各地からVRカフェを訪れる人が急増。中には遠く北海道の80代女性と、沖縄の学生が同じテーブルで豆からコーヒーを挽くバーチャル体験を楽しみ、その思い出を分かち合った。AIがつなぐ“しあわせの記憶”によって、訪れるたび新しい誰かと心が呼応する仕掛けが人気だ。

石橋さんは「自分の作った店が、デジタルの世界でも誰かの憩いの場になるなんて、本当に夢みたい」と話す。今後は全国の閉店した“思い出喫茶”をデータベース化し、みんなの大切な記憶を未来へリレーするプラットフォーム構想も進行中だ。SNSには『VR越しでも、コーヒーの香りと人の優しさは伝わる』『亡くなった父の好きだった場所に、娘と一緒に行けて嬉しい』など、感動の声があふれている。新しいイノベーションが、世代も場所も超えて、誰かの心をあたため続けている。

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