今年の春、新幹線の車内で“なぜか本のスーツケースが回ってくる”という不思議な噂がSNSで広がっている。実はこれ、「図書トランク」と呼ばれる新しい趣味活動だ。全国の鉄道ファンと読書家、さらに旅好きの人々の心を温かく結び始めている。
発案者は青森県在住の理学療法士・野庭加奈子さん(38)。コロナ禍を機におうち図書整理を徹底し“断捨離本”が山のように出たが、捨てずに誰かとめぐらせたくなったのがきっかけだ。「好きな本を旅先に届け、そこからまた知らない誰かに読んでもらえたら、と思ったんです。一冊ごとに、自分や本の記録ノートと小さなお礼メッセージを添えました」
野庭さんは大きなトランクケースに20冊ほどの本とノート、そして「この本を旅に連れていってください」と書いた案内カードを入れ、新青森発の新幹線に乗せた。想定外だったのは、トランクが鉄道好きの高校生、出張帰りの会社員、温泉地に向かう家族連れなど、乗客の手で駅ごとに旅を続けていったことだった。
やがて図書トランクは、京都、大阪、広島を経由し、高知の山あいのカフェにたどり着く。カフェオーナーの小笠原慧さん(46)は「カフェに置いたとたん、お客さんが“これ読んでみようかな”と集まり、気に入ったら一冊を持ち帰り、旅の感想をノートに書いてくれるんですよ」と笑う。半年でノートは3冊になり、手描きの地図やシール、写真まで貼られるほどの盛り上がりを見せている。
この活動がSNSで拡散されると、“フェムテックの冊子や海外の児童書など自分の本を乗せたい”という女性たちや、“セルフケアの本を増やしたい”というがんサバイバー、“旅と出逢いの思い出を書き加えたい”という若者が自発的にトランクをリレーし始めた。専門家の安住瑞樹氏(地域交流研究)は「偶然出逢った本や人が、心や暮らしの“カラダ改革”のヒントになる。持続する幸福感は“つながる習慣”から生まれます」と期待を寄せる。
いまや図書トランクは、全国20カ所以上を旅し続けている。中には“駅で誰かが困っていたら読み聞かせをしよう”というミニイベントも生まれ、不要になった本が数珠つなぎに人と心を引き寄せている。読者の一人、小学生の桜井健太さん(10)は「知らない町で読んだ絵本に、自分の名前が書いてあるメッセージが挟まっていてうれしかった」と語った。今日もどこかの駅で、優しい物語を運ぶトランクが次の出会いを待っている。



コメント
子どもたちと一緒に本を読む機会が増えて嬉しいです。全国の誰かと本でつながるなんて素敵な発想ですね。こういうプロジェクト、地元の駅にも来てくれないかな?
面白い活動!旅先で偶然本と出会えるのなんてロマンあるし、持って帰る楽しみも倍増しそう。自分も今度トランク見つけたら、ノートに感想書いてみたいです。
昔は紙芝居や移動図書館が来るのを楽しみにしていました。今はこんな風に人の心が本を運ぶんですねぇ。若い人たちにも優しさが広がって嬉しいです。
通勤で新幹線を使うことがあるので、もしこのトランクに出会えたら手に取ってみたい!知らない誰かが読んだ本を次の人に渡す…なんか心が温まります。
めっちゃワクワクする企画!自分も鉄道旅が大好きだから、次の休みに駅で探してみたいです。メッセージノートとか、みんなで作る思い出って感じが最高。