広大な釧路湿原の北東端、かつて伐採によって一度は荒廃した森林再生地域で、誰もが心温まる未来志向のプロジェクトが実を結んでいる。『森の図書館』の名で親しまれるこの自然保護区は、児童や地域住民、研究者の垣根を越えて、人と動物と森が一体となる新しい自然共生モデルとなっている。
かつてより豊かな森林を夢見ていた主婦(39)の菅野由香里さんは、「この森は私たちだけのものじゃない、とずっと子供たちに伝えてきました」と微笑む。五年前、地元小学校の環境教育プログラムとして始まった植樹活動がきっかけとなり、今では月に一度の『森の読書会』が開かれるようになった。児童たちは小さな木陰に手作りのベンチを並べ、森の絵本を朗読。その時、野生のエゾリスやフクロウたちが静かに集まり、子どもたちの輪の外で耳を傾けている姿は、訪れた人々の心を温かく満たしている。
研究者の長田俊一さん(森と湿地の生態系保全協会)は、「子どもの声が響くと、森の生き物が警戒を解いて出てきてくれるんです。人と自然の信頼関係が、目に見える形になった」と話す。開始から5年で、湿地におけるカエルの多様性が約2倍に増加。絶滅危惧種とされたヤチネズミの新たな巣も確認された。SNSでは「人も動物も読書が好きだったなんて」「子どもが話す森の物語に、私たち大人も癒されます」といった投稿が相次ぎ、“森の読書会”の様子があたたかくシェアされている。
さらに、この森では森林再生とエコツーリズムを両立させるため、地域住民発案の“やさしい森バッジ”キャンペーンも始まっている。これは、参加者が森で拾ったゴミを持ち帰るなど、自然を守る行動を取るごとにバッジを集められる仕組みだ。6歳の児童、小川航平くんは「キツネさんにもバッジつけてあげたい!」と照れ笑い。先日、偶然近くの木の根元で見つかった小さなバッジが、誰が置いたものかわからず子どもたちの間で“動物たちからのお返し”だと語られている。
それぞれが交わす小さな約束が、森の未来への希望につながっている。森林再生を目指す菅野さんは「ここで過ごした子どもたちは、きっとどこでも自然を大切にできる大人になる」と語り、森の図書館では今日もまた、小さな朗読と動物たちの静かな来訪が続いている。人と森、そしてすべての生きもの同士が手を取り合う、この“一冊”の物語は、これからも色鮮やかに紡がれ続けるだろう。
コメント
小学生の息子と一緒に記事を読んで、心がほっこりしました。子どもたちが森や動物と仲良くできる体験、ほんとうに素敵ですね。私も近くにこんな場所があればいいのに…!
こんな読書会、めちゃくちゃうらやましいです!自然の中でどうぶつたちと一緒に本を読むとか、現実だったら最高ですね。実際に行ってみたい!
私はこの湿原で生まれ育った者ですが、昔は森もずいぶん荒れておりました。それがこんな幸せな場所になったこと、心からうれしく思います。子どもたちの笑い声が森に響くのは本当に美しいですね。
やさしい森バッジのアイデアが素敵すぎて、子どもが夢中になるのも納得です!動物たちからのお返しバッジのストーリーもかわいすぎる♪ こんな優しさの連鎖が広がったらいいな。
ほぼ毎月、読書会の子どもたちの声が風にのって聞こえてきて、とても穏やかな気持ちになります。本当のことじゃなくても、こんな温かいニュースがもっと増えてほしいです。