ジャズと優しさが舞台を変えた――小さな町の奇跡のオルタナティブフェス

古い劇場のステージで野菜で作った楽器を持ったバンドを、観客の子どもや大人たちが笑顔で見守っている様子。 音楽
住民が協力し合い、温かな雰囲気に包まれたフェスの一場面。

春のやわらかな光が降り注ぐ週末、小さな町、岩手県背田町の古い劇場「ラピスホール」にて、音楽フェス『オルタナティブ・フィールズジャズフェス』が開かれた。誰もが知る有名アーティストはいない。でも、会場には“音楽の奇跡”が溢れていた。

地元の高校で音楽部部長を務める湯川直哉(17)は、学校の仲間たちと共に、町おこしとしてこのジャズフェスの開催を提案した。「背田の人々に、普段出会えないような音楽を体験してほしい」との想いからだった。しかし、クラシックなホールには老朽化した楽器や音響設備、そして町の人たちも新しい音楽には少し消極的な空気。そんな中、町の書道家、美保環(58)が自宅の蔵から50年前のビブラフォンを寄贈したのを皮切りに、和菓子屋の大橋理恵(42)が来場者全員に手作りおやつを、バス運転手の九条勝(61)が深夜まで町中を周回して無料シャトルバスを運行するなど、住民たちの「できることから始めよう」という優しさが会場を支えた。

フェスの目玉は、地元農家の鈴木音斗(33)が指揮する、野菜で作った楽器バンド「サラダチューンズ」。人参のサックス、かぼちゃのドラム、セロリのフルート…。演奏が始まると、子どもたちだけでなく大人たちも思わず笑顔になった。病院勤務の看護師・福留章子(28)は「音楽も、野菜も、人の手から生まれてくる。だからこそこんなに温かい」と語る。

客席では、杖をついたおばあさんが、耳の不自由な小学生・外山湧(10)のために並んで手話でリズムを伝えた。メインステージ終了後には、観客のSNSで「#背田の奇跡」がトレンド入り。あるユーザーは「知らない人とも、目と心が通じて優しくなれる場所」と投稿し、また別のユーザーは「耳が聴こえなくても音楽が楽しめる、そんな舞台を初めて見た」と感動を綴った。フェスは夜まで続き、最後は参加者全員で舞台に上がり、“星降る夜のリズム”を合唱。普段はバスの終電を間に合わそうと急ぐだけだった町の人たちが、ゆっくり帰り道で語り合い、肩を並べて歩いた。

村田音楽大学の楠木理人教授(43)は、「誰かを思う気持ちが音楽に乗り移ったとき、舞台はただの空間から、記憶に残る特別な場所に変わります。その力を、この背田町は見事に証明しました」とコメント。フェスは来年以降も恒例行事として開催が計画され、大切な“舞台”が、町の誇りとして輝き続けることとなりそうだ。

コメント

  1. 素敵すぎて涙が出ました。子どもと一緒に野菜の楽器を作ってみたくなりました!こういう温かいイベントがもっと増えたらいいですね。背田町の皆さんに拍手です。

  2. 最近は知らない人同士がなかなか関わらなくなりましたけど、背田町のみなさんの優しさに元気をもらいました。昔の日本の良さが残っているようで、読んでいて心があたたかくなります。

  3. こういうフェス、絶対行ってみたい!自分たち高校生が中心になって盛り上げてるのもカッコイイです。部活の仲間と話し合って、うちの町でも何かできないか挑戦してみたくなりました。

  4. 九条さんのバス、粋ですねぇ!ふだん陰で支える仕事も、こうしてみんなのためになっているって感じられると幸せな気持ちになります。来年は自分もお手伝いに志願したいです。

  5. 耳の不自由なお子さんとリズムを手話で分かち合うシーン、想像しただけで胸が熱くなりました。言葉や音の壁をこえて、みんなで楽しめる音楽って本当に素敵ですね。