自転車と本がつなぐ笑顔の輪、巡回ライブラリーが町をひとつに

黄色い自転車に本をたくさん積んだトレーラーを引き、笑顔の女性が住宅街を走る様子と、その周囲に集まる町の人々。 幸福度とウェルビーイング
本でつながる町の人々が、巡回図書自転車の到着を温かく迎えています。

本が好きな人も、そうでない人も。静岡県日向市の住宅街を、今、一本の黄色い自転車がゆるやかに駆け抜けています。荷台には色とりどりのブックトレーラー。風に踊る旗の合図を待ちわびるのは、子供からお年寄りまで、一冊の本で心が近づく町の人々です。

自転車図書館『ことは号』を始めたのは、図書館司書の渋谷葉月(32)。「コロナの時期を機に、家にこもりがちなお年寄りや外に出づらい子供たちが増えました。町の誰もが、日常の中にちょっとした楽しみや発見を持てるようにと考えて、一人で始めました」と葉月さんは微笑みます。最初は自宅の余った本を積んで巡るだけ。しかし、訪れる先々で出会った人たちが、自分のおすすめの本を託すようになり、今や100冊以上の“贈り物”を乗せて町中を走ります。

ことは号には、古典文学や絵本だけでなく、町の誰かが思い入れの強い詩集、昔話、料理の本、さらには自作の短歌が書かれたノートも並びます。本を借りると、次に読んでほしい人への『ひとことしおり』を挟むのが合言葉。しおりには、「この本と一緒に、あなたの今日がちょっとやさしくなりますように」など、手書きのメッセージが添えられています。

地域のつながりも、ことは号の誕生で大きく変わりました。以前は顔を合わせなかった近所同士が、読み終えた本の貸し出し場所で自然と語り合うようになり、気づけば井戸端会議ならぬ“ブック端会議”が生まれました。通学途中の高校生が年配の利用者に使いやすい自転車用のブックバッグを手作りするなど、思わぬ世代間交流も拡がっています。町内の報道部員である田渕誠一(54)は「本を通して優しさや知恵が巡り合う。町の幸福度が、確実に上がっていると感じます」と語ります。

SNSでもことは号の話題は拡散中。「通りすがりに勇気を出して話しかけたら、あたたかい詩の一節に出会えた」「ひとことしおりを読んだ日から、毎日が前向きになった」などのメッセージが寄せられ、町外から寄贈の申し出も相次いでいます。葉月さんは「ことは号が走る限り、誰かの毎日がほんの少しでも幸せになりますように」と自転車のペダルを踏みこみます。日向市の風景に、新しい希望の色が加わっています。

コメント

  1. こんな素敵な取り組みがあるなんて感激です!うちの子も最近あまり本を読まなくなっていたけど、「ことは号」が来てくれたらまた興味を持ってくれるかも。手書きのひとことしおりも、心が温かくなりますね。

  2. 歳を重ねると出かけるのが億劫になりがちですが、ことは号のおかげで毎週のお楽しみができました。昔話や詩集を手に取ると懐かしさで胸がいっぱいになります。葉月さんに深く感謝したい気持ちです。

  3. 最初は自転車に本…?って思ったけど、友達と一緒に集まって、自分たちのオススメを話し合うのがすごく楽しいです!世代を超えて交流できるのって、他ではなかなかない経験だと思います。

  4. うちのお店の前にも何度かことは号が立ち寄ってくれてます。パンの香りと本の香り、なんだか相性いい気がして(笑)。町に笑顔が増えたのを実感しています!

  5. 日向市に来て間もないので、知り合いも少なかったのですが、ことは号で近所の方とお話しするきっかけができて毎日が明るくなりました。こんな優しい町に来て良かったと心から思います。