98歳エンジニアが叶えた“ふるさと再会” デジタルツインで甦る懐かしの村と絆

高齢の男性がリビングでVRゴーグルを着け、家族に見守られながらデジタル村の風景を体験している様子。 デジタルツイン
デジタルツインの技術で再現された故郷を家族とともに体験する河本さん。

「もう一度、あの桜並木をみんなで歩けたら――」そんな想いが、歳を重ねた人々と最新技術をつないだ。兵庫県の小さな集落で生まれ育った98歳の元エンジニア・河本多志郎さんは、かつての村と仲間たちの絆を、デジタルツイン技術を使い“サイバー空間”で甦らせた。現実と仮想がやさしく溶けあう中、懐かしい友が再び笑顔で出会う、あたたかな奇跡が起こっている。

河本さんが過ごした「浜坂谷(はまさかだに)」は、昭和の終わりに廃村となった旧集落だ。長い歳月の中で、かつての風景や人々の記憶も消えかけていた。そんな中、スマートファクトリー関連企業に勤めていた孫・遼介(32)の手伝いもあって、河本さんは人生初の“メタバース開発”に挑戦。手元の古いスケッチや写真、当時の自動車やプラントのエピソードまでを詳細に語り、3年がかりでデジタル上に「浜坂谷」を再現した。

再現された“サイバー村”では、誰もがかつての自分で登場できる。遠く北海道や九州、海外からも集まった村の出身者たちは、デジタルツイン空間内で幼き日の姿となり、バーチャルの桜並木や石造りの教会、木造校舎やお馴染みの自転車工房を自由に歩き回った。春の夜には、皆でメタバース花見を行い、昔話に花を咲かせる。“仮想”という枠を超えて、むしろリアル以上のぬくもりが感じられたという。

ある日、かつて製造されたトラックや農機を構造ごとに可視化した“デジタル自動車博物館”が村内に登場。参加者の一人で米国在住の元教師・大澤志保さん(74)は、「昔みんなで修理したトラクターまであったの。まるで手触りがよみがえるようだった」と涙ぐむ。さらにシニア世代の新たな交流も生まれ、村に縁のなかった若者や子どもたちも、フィジカル空間での想い出作りをきっかけに、このサイバー集落を訪れるようになった。

「デジタルツインには技術だけじゃない、“記憶も笑顔も残せる力”がある」と河本さんは語る。プラントDXにも携わる孫・遼介さんは、「地域を超え、世代を超えて、人を可視化でつなぐ場になると信じている」と微笑む。SNSでも、“仮想でも編める本当の家族の絆”として静かな感動の輪が広がっている。春の桜がサイバー空間で咲き誇るその時、現実の浜坂谷の山にも、おだやかな風と小さな笑顔が戻ってきている。

コメント

  1. とても素敵なお話ですね。子育て中の私も、こんなふうに家族やふるさとの思い出がずっと残せたら素敵だなと思いました。技術って、使い方次第でこんなに温かいものになるんですね。

  2. わしも昔の仲間とまた話せたらええなぁと思いながら読みました。98歳で新しいことに挑戦される河本さん、本当にすごいです。浜坂谷の桜並木、私も見てみたくなりました。心があったまるニュース、ありがとう。

  3. 仮想空間で懐かしさを共有できるって、新しい時代を感じます!おじいちゃん世代も参加できるって、すごいことだと思います。私もいつか故郷の思い出をデジタルで残したいな。

  4. 河本さんと遼介さんのお話、なんともじんわり来ました。現実の浜坂谷にもまた優しい風が吹いてるって表現、わかる気がします。ご近所にもこんな温かい繋がりがもっと広がったら嬉しいですね。

  5. なんだか読んでほっこりしてしまいました。昭和の記憶って、どんどん薄れていくものかと思ってたけど、こうしてデジタルの力で甦るのは夢みたいですね。河本さん、いい時代に生きてくれましたね。