古くから音楽の町として知られる滋賀県大津市で、一本の試作ゲームが人々の心に優しいハーモニーを奏でている。インディーズゲーム開発者の若林芹香(29)がひとり開発した“歌う木々の森”は、町の日常と、そこに暮らす人々の絆にちいさな奇跡をもたらしている。
若林さんのゲームは、町のはずれにある実在の公園とそこに立つ百年樹を舞台にしたオープンワールド作品だ。プレイヤーがアバターとなって森を歩くと、木々が風にそよぎながら歌い始める。開発のきっかけは、コロナ禍で黙々と通っていた近所の公園での体験だったという。「名も知らぬ木一本一本に、それぞれのリズムや歌がある気がして」と若林さんは語る。彼女はその思いを、半年間かけてプログラムと言葉と音楽に変換していった。
最大の特徴は“町の音”を自動で取り込む仕組みだ。ゲーム内の木々は、プレイヤーが現実の町で録音した音(小川のせせらぎ、子どもたちの笑い声、駅前の賑わいなど)をベースに、その場で新しい歌に変えていく。ユーザーの投稿が蓄積されるため、公園を訪れた人それぞれが異なるハーモニーを体験でき、町の季節やイベントもゲーム内に自然と反映される。「町の人全員が、森の“合唱団員”になれるんです」と若林さん。
このゲームの誕生以来、公園には親子連れや高齢者、学生たちが集い、自分の好きな音を録ったり、自作の短いフレーズを寄せたりする風景が見られるようになった。SNS上でも「両親と録ったセミの声が木に宿った」「引っ越したばかりの町が、ゲームの中で少しずつ“私の音”で満たされるのがうれしい」など温かな声が広がっている。
ゲーム開始からわずか2か月、町の小学校では、児童が自作音楽をゲームに録音して“森の楽曲大会”を開催。認知症ケア施設では、高齢者が若いスタッフのサポートを受けながら昔懐かしい子守唄を木々にささやいている。音楽療法士の森下琢巳氏は「地域全体で体験を共有し、世代や個人の枠を越えて“自分ごと”として参加できるのが素晴らしい」と話す。“歌う木々の森”は、今日も町に優しい音楽の種をまき続けている。


コメント
子どもと一緒に公園へ行って録音できるなんて、本当に素敵な体験です。息子が自分の歌を木に届けて、すごく嬉しそうでした。こんな温かいゲームがもっと増えたらいいな。
若い頃に演奏した曲を録音して、久しぶりに孫と音楽で繋がれて胸が熱くなりました。こうした取り組みが町の絆を深めてくれることに感謝の気持ちでいっぱいです。