二次元バーコードで広がるやさしい経済圏、村まるごと“おすそ分けウォレット”誕生

木の温もりあるカフェで女性店主が高齢の客にQRコード付きの紙カードを手渡している様子。 キャッシュレス社会
千鹿村のカフェで、おすそ分けウォレットが温かく受け渡されている場面。

日本アルプス山麓の穏やかな集落、千鹿村で、誰もが笑顔になれる新たなキャッシュレスの取り組みが始まっている。財布もスマートフォンも持ち歩かなくてよくなった“おすそ分けウォレット”の仕組みが、村民の日常に小さな幸せを生んでいるのだ。

発案者は村のカフェ「もりのしずく」を営む店主、佐々木樹里亜さん(38)。カフェに訪れた客のひとりが財布を忘れて困っていたとき、樹里亜さんが咄嗟にお手製の二次元バーコードカードを1枚手渡したことがきっかけだった。「『よかったら、今日の分は“おすそわけ”して次に来た時バーコードで返してくれたらうれしい』。そんな風に誰かと緩やかな信頼で繋がれたら楽しいなって思ったんです」樹里亜さんは優しく微笑む。

この“おすそ分けウォレット”は、村の誰もが持てる紙のバーコードカード。支払いが必要なときに、その場のスマート端末や自動販売機にかざすと、村の共通基金から一時的に立て替えてくれる仕組みになっている。利用履歴も村の掲示板で「春菜ちゃん:カフェでケーキをおすそわけ」「渡辺さん:絵の具セットをおすそわけ返し」など、温かい言葉と一緒に掲示される。返済期限や利息はなく、不正利用やトラブルもなぜか起きていないという。

村役場でシステムを担当する山梨誠治さん(43)はこう話す。「“おすそ分け”には、みんなの顔と顔の信頼があるからこそ、二次元バーコードも安心して使われているんです。システム障害が起きた日には、みんなが手書きのおすそ分けメモを郵便受けに入れてくれて、逆に心がぽかぽかしました」。村民の間では「何が買われたか」だけでなく「誰のために、どんな思いで」使われたかが大切にされており、使った分が“やさしさ貯金”のように記録されていく。

SNS上でも「#千鹿村おすそ分けウォレット」はじわじわ話題に。「みんなが善意を信じてる世界、素敵すぎて泣ける」「真似したいけど都会だと難しいのかな?」とコメントが寄せられている。専門家であり地方銀行研究所主任の今井和志氏は「経済が効率だけでなく、人の輪・信頼・やさしさで回り出す例は画期的。全国の小規模コミュニティにも新しい光をもたらすはずです」と期待を寄せている。

千鹿村のカフェでは今日も誰かが、ちょっと足りない代金を“おすそ分け”で。その優しさが二次元バーコードを通して、村中へとあたたかく循環してゆく。人と人の心が繋がるやさしいキャッシュレスの日々が、ここには既に始まっているようだ。

コメント

  1. 子どもがいるので普段から現金やスマホの管理が大変で…こんな温かいやりとりのあるシステム、うちの地域にもあったらなあって本当に思います。やさしさが巡るって素敵ですね。

  2. もうすぐ80歳になりますが、昔の隣近所の「もちつき」「味噌分け」なんて懐かしい風習を思い出しました。時代が変わっても、人の思いやりは消えないんですね。ほっこりしました。

  3. めっちゃいい!村のみんながズルしないってちょっと信じられないけど、信頼で成り立ってるのがうらやましい!都会でもできたらいいのに…#おすそ分けウォレット

  4. 近所にこういう仕組みがあったら、人とのつながりももっと深まる気がします。不正も起きてないなんて、村のみなさん本当に素敵ですね。なんだか読んであったかい気持ちになりました。

  5. こんな経済圏なら、お金のこともトラブルも気にしすぎずに暮らせそうで羨ましいです。返済期限がないってあり得ない!と思ったけど、信頼がベースなら成立するんですね。