町の古民家で始まる“月光ベーカリー”——80代3人組、夢のパン屋起業物語

古民家の中でエプロン姿の高齢の3人がパンを囲んで微笑んでいる夜の写真。 起業・創業
月光の差し込む古民家で微笑み合う“月光ベーカリー”の創業メンバーたち。

月の光が差し込む夜、閉ざされていた古民家の窓から湯気と小さな笑い声がこぼれていた。それは町のはずれで長年空き家だった築80年の家屋が、この春、「月光ベーカリー」として新たな命を得た瞬間だった。パンの香ばしい香りと共に広がるのは、誰もが思わず微笑む心温まる起業ストーリーだ。

月光ベーカリーを始めたのは、長年の友人同士である渡辺永吉さん(81)、小林睦美さん(84)、そして三宅修一さん(80)の3人組。定年退職後、それぞれが地域の見回りや家庭菜園に勤しむなか、“もう一度新しいことを始めてみたい”という思いが自然に生まれていった。永吉さんが孫と作ったプロトタイプのレシピを見せると、3人は「これなら続けられる」と満場一致。夜間営業なら体力や持病とも向き合えると考え、月の出る時間だけオープンするパン屋を考案した。

ただし、パン作り自体はまったくの初心者。そこで地元商工会のサポートと、ひょんなきっかけから知り合ったベンチャーキャピタルの担当者(35)・新井翔也さんが「リスクマネジメントは僕らも一緒に手伝いますよ!」と資金管理や法人化のアドバイスを快く引き受け、パートナー企業と共にエンジェル投資も実現。地域の若手が協力して研修会を企画し、パン職人見習いの学生も共同創業者として加わった。世代も肩書も超えた“ゆるやかな協働”が、月光ベーカリーの核となっていった。

オープン初日。“月見トースト”や“夜想クルミパン”など独自レシピに地元野菜をふんだんに使い、数十人が夜空の下に集まった。お客さんの中には高校生のカップルや深夜勤務帰りの看護師、市議会議員(60)の姿も。思い思いの理由で訪れた人々は、パンを手にふと隣同士で微笑み合ったという。特に、入口の“みんなの一言ノート”には「ここに来るとほっとする」「永吉さんの話を聞くと元気になる」「夜勤明けの帰り道が楽しみになりました」など感謝の言葉が続々と記されている。

SNSでも“#月光ベーカリー”のハッシュタグが静かに拡がり始めている。「この年齢で起業してくれてありがとう」「そこに行けば必ず誰かと優しい気持ちを分け合える」との投稿が共感を呼んだ。専門家である起業支援団体代表の田口陽一さん(52)は「年齢を問わず挑戦する勇気や、地域でささやかな幸せが事業に昇華していくのは素晴らしい。リスクをみんなで分かち合うことで、中小企業でも穏やかな経営が続くんだと実感させてくれる」と語る。月光ベーカリーは、パンを通じて世代を結び、誰もが人生の主人公になれる場所をゆっくりと育てていく。

コメント

  1. 娘と一緒に記事を読んでほっこりしました。こんな素敵なパン屋さんができたなんて、子どもともぜひ行ってみたいです。世代を超えた交流があるって、とても温かいですね。地域がもっと好きになりました。

  2. 同じ80代として、とても勇気づけられるお話です。昔の友人たちともう一度何か始めてみたくなりました。月の下でパンを焼くなんて、とってもロマンチックですね。応援しています!